３．部会＜学校経営部会＞
沢田 金吾
Ⅰ、はじめに
おはようございます。岩手県の江南義塾盛岡高等学校副校長の沢田金吾と申します。本日はよろしくお願いいたします。
本校における組織マネージメントということで発表させていただきますが、まず、主題について言い訳ですけれども、「本校における組織マネージメント」とありますが、実は私、江南義塾にお世話になったのが、昨年の４月からでございまして、まだ１年４カ月しかたっておりません。それで、このお話をいただいたのが昨年の暮れぐらいで、はいわかりましたと返事したのですが、後で文書を見ましたら、経営部会で人材を生かす組織マネージメントという研究テーマで、さてどうしようかとなりまして、とりあえず「組織マネージメント」の上の方を消しまして、「本校に」といれさせていただきました。
なおかつ組織マネージメントという言葉は、話には聞いていました。しかもビジネスコーナーに行きますと一杯本が並んでいます。特にピーター・ドラッカーという人の本がいっぱい並んでいます。ここにいらっしゃる方々は経営ということに関してはベテランの先生方ですので、大変僭越なのですが、最近「もし野球部の女子マネージャーがドラッカーを読んだら」という小説本がありますが、近くの大型書店で見ますと、人気ランキングの５位に出ていました。そして、ピーター・ドラッカーのマネージメントの本が２位にランクされていました。私は読んだことがなかったものですから、とりあえず図書館で借りて読んでみました。本校の組織マネージメントということをお話しするにあたって、組織マネージメントということがどういうことかよくわからないと話が進みませんので読んでみたのです。読んでみて感じたのは、組織というのは集団ですので、そこに一人ひとりの能力や強さを十分に発揮させて組織としての集団としての成果を、社会に貢献するものだということがポイントになっていたような気がします。そういう意味で組織とは何らかの目的を持って運営するわけですが、その実現のために活動して成果を持って社会に貢献するものです。するとマネージメントというのはその成果をよりよく、十分出すという手法という意味に捉えました。
前提としては、当然一人ひとりの強みを生かすということがありますので、そのへんのところが果たして本校ではどうかと考えてみました。本校の三浦理事長・校長が約２０年間校長をしてきて、色々なことがありましたが、改革等色々なことをやって、やっと落ち着いて非常にいい学校になってきました。その辺のところをひも解いてみまして、その中でどういう経営をやってきたのかということを、副校長という立場で眺めてみて皆様方にご紹介してみようということで発表することになりました。
Ⅱ、本校の歩みと現状と組織について
次に、本校の歩みと現状についてですが、日本には私立高校が１３００校ぐらいあるということですが、その中でも本校は最も小さいと思います。
本校は明治２５年に創立しました。実際には旧制中学や師範学校の塾として創立されました。明治３３年には江南義塾という名前でしたが、幾度かの校名変更を経て岩手橘高校となりました。評判があまり良くない時期がありまして、一時、定員が２７０名のところ全校で６０名ぐらいになった時がありました。その理由が、生徒数がだんだん減ってきたので、関東地方から途中入学をどんどん入れたところ、皆そちらの方では手の余る生徒ばかりだったため生徒指導上困難になり、地元から生徒が入らなくなった。これではいけないということで、本校の校長は、普通の学校にしようということで、努力をしました。
岩手山が後ろに見えるこの２階建ての校舎が教室で、昭和５５年に盛岡城跡の近くから今の前九年町に移転しました。その当時は、評判の悪い学校だったらしくて地域から移転の反対もあったと聞いております。横の３階建ての建物は普通教室が２つしかありません。３階には情報処理教室が２つあり、９０台のパソコンがあります。１階が家庭科室と教室と格技場があります。生徒が少し多いものですから、プレハブの教室が３階建の建物の横に２棟ありますが、そういう非常に小さい学校です。岩手県では１３校私立学校がありますが、その中でも施設設備は整っていませんが、そういう中で運営しております。
生徒数は、定員が９０名です。普通科４５名、情報処理科４５名の二つのコースがあります。現在１学年は１５８名、定員９０名の１．７倍くらいになります。２学年は１３８名、３学年が１２９名の計４２５名になります。１年生５クラス、２年生５クラス、３年生４クラス、計１４クラスです。
教員数は常勤の職員が１９名おります。校長、教頭を除けば１４名と事務の職員が５名です。後、非常勤が２４名で運営しています。クラスが１４クラスありますので、校長、副校長以外は１４名全部担任をしており、副担任がいないという状況です。そういう形の非常に小さい学校です。
卒業式が３月３日にあり、４月の入学生数を見ながら現状をまとめてみました。
まず、過去１０年間、私の学校で入学生がどうなっているかということで、学校基本調査の本校の入学者数と、中学校の卒業者数、実際は前年度の中学校の３年生の人数を見てみると、中学生は減っていますが、本校入学生は逆に増えています。これが一体どうしてかということが一つあります。
それからもう一つ。卒業式は例年３月３日です。四十数校から生徒をお預かりしていますが、そのうち中学校の校長先生３０名ぐらいが出席していただいております。その時の先生方の感想というのが、生徒たちが立派に返事をして、しかも皆勤賞や精勤賞をいただいて卒業してゆくということに感動するというお話をいただいています。そういうことも含めて本校を率直に自己紹介したいと思います。
Ⅲ、本校の教育活動の特徴と学校運営方針
今は県内に１３校ありますが、生徒数減少の中で定員を満たしていない、充足できない学校が多い中で、なんとか維持できているという状況です。
そのなかで、どういう教育をしているかということですが、非常に単純で、教育目標は「３０年後の大木を目指す人間作り教育・心の教育」を掲げています。
３０年後というのは何かというと、具体的に１８歳で卒業すると４８歳になります。私たち教員でも２５年働けば教育表彰を受けたりしますが、学校ではだいたい中核として働いています。おそらく卒業生も社会の中で中核として十分に働いていると思われます。そういう時に、皆さんと一緒に力を合わせながら充実した人生を送れるように、そのためには何が必要かというと、それは「徳性」であると思います。それを何とか充実させていきたいと思います。３０年たつとそのあと１０年くらいすると定年になります。しかし今、平均年齢は男性が７９歳、女性が８６歳で世界第１位、まだ２０年、３０年と生きるわけです。そういった人生の中で十分にいい人生を送れるには、自分を磨く、徳性を磨くことは大事ではないかと思います。
具体的に重点目標としているのは、高校３年間でぜひ身につけてほしいということとして、いずれにしても社会人になるわけですので、自立した社会人を育てるために、一人でも生きていけることが必要です。さらにみなさんは組織の中で仕事をしてゆきますのでその中で、「休まない、遅れないこと、人間関係を上手に、それに正々堂々とまっすぐに生きること」を掲げて教育活動をしています。
さて、レジュメの３番目の重点目標の下に生徒の特徴というところがあります。
どういう生徒が入ってきますかというと、今は、不登校や特別支援学級や保健室登校、別室登校などの生徒がたくさん来ます。今、普通科は４クラスで、情報処理科は１クラスあります。スポーツやクラブ活動、野球やサッカー、バスケットボール、剣道など皆熱心にやっていますが、そういう生徒は、そういったところに入ってしまうと埋没してしまって、また不登校になるというので、特別なクラスにしています。それをＡ組としています。特殊とは言わずＡ組といいます。そしてＢ組、Ｃ組が普通科、Ｄ組が情報処理科で二十数名のクラスです。
最初は１５名くらいでスタートしたものが、どんどんどんどん増えて、３年後くらいには４０名を超えてしまって、今は、この春入学した生徒は、Ａ組が２クラスになり、３５名、３５名の大体７０名ぐらいです。そういう生徒が非常に多いです。あとは元気な生徒がいるわけですが、野球とかサッカーとかそういった生徒は結構元気ですので、そういうクラスは特別にせず、一緒にしております。学力の低い生徒もいるわけですが、実はこのクラスが学校の中ではとても熱心に勉強しますし、落ち着いています。だから先生方もそのクラスで授業をしたがります。クラス分けといってもクラスを隔てることは一切ないので、みんな仲良く安全に安心して勉強している落ち着いた学校です。
教育目標を達成するために具体的な実践として、人間教育にかかわるものとして、いろいろやっています。
校長はいろいろな集会で、服装検査や始業式や終業式で、常に「人間は徳性が大事だ」という話を長々とやります。さらに、毎日やっていることとして、校長の言葉というのがあります。生徒が帰った後に、何人かの先生が校長から頂いた紙に書いてある言葉を黒板に書きます。色々なチョークを使って書きます。ネガティブな言葉は青とか、ポジティブな言葉はピンクとか、強調したい言葉は赤とかいろいろな色を使って書いています。それを毎日やっています。毎日いろいろな言葉が出てくるわけですが、それを集めるとかなり厚くなりますが、最後にはそれをまとめて中学校さんに差し上げたりしています。
生徒はこれをどうするかといいますと、朝のホームルームの時間に日直の生徒がこれを読んだり、あるいは全員で読んだりします。担任が自分の体験を踏まえてこれを解説したりします。何かいい言葉があると、ピタッとくる生徒もいます。生徒は経験が少ないので、すぐに来るわけではないかもしれないですが、ノートに一生懸命書いている生徒もいますし、先生方も解説しながら、自分自身振り返ってみるということで、心の教育の一環として毎日やっています。
あとは、服装検査など厳しくやっています。さらに普通科では、授業で、職業教育ということで最近はフォークリフトや自動車整備や運転免許・資格、危険物、デザインの資格、女子には華道や茶道や着付けなど普通にはないものを取り入れたりしています。これは体を動かすことなので生徒も喜んでやっております。
さらに、人間づくりの中で、学校というのは生徒が来ないと始まりませんので、先程の本校の目標の休まない・遅れない・人間関係を良くするということで、欠席をなくす、遅刻をなくすということは徹底してやっています。欠席・遅刻・早退の状況確認ですが、生徒は学校に来てもベルが鳴れば遅刻ということになりますが、遅れた場合は授業出席願というものを必ず出させます。それには担任と副校長と校長が必ず印鑑を押してそれを持って授業を受けるということになります。私は教務主任を兼ねていますので、生徒が印鑑を押してくださいと来た時に必ずメモをして表を作ります。遅刻・欠席・早退とあり、早退は早退届けを出すのですが、その時は必ず、アリバイ証明の意味もあり、家に持って帰って保護者の印鑑をもらって次の日持ってくるということにしています。そしてこういう表を作って毎日チェックしています。クラスごとに誰が何日休んでいるか、上が３年生、次が２年生、下が１年生になっています。次の日校長に報告します。これを１カ月、数字をグラフ化して、何日何曜日どんな状況か、クラスごと、左から３年生２年生１年生の、青いのが欠席で赤いのが遅刻、緑色が早退です。これを全部クラスごとに出します。さらに個人ごとに誰が遅刻したり欠席したりしているか、例えば２年生のＢ君の場合、青いのが全然ありません。１ヶ月間欠席なしです。特定の生徒がこの程度の日数で、後は大体皆勤です。１年生が入ったばかりで、不登校が必ずクラスにいますが、Ａ、Ｂには多いですがＣ，Ｄにもいます。例えば６月の２２日間のうち、２２日休んでいる生徒がいますが、この生徒は養護施設で生活していて、少ない人数の中で生活して集団の中に入っていけないという生徒で、でも自立させないといけないということで施設のほうでは本校にということで来たのですが、近くに支援学校があり、そちらの方に入りたいという意識が強くて、４月５月には出てきたんですが、６月にはついに出てこられなくて１ヶ月間まるまる休んでいます。それから中学時代不登校だった生徒がいますが、こういった生徒については職員会議に全員リポートします。職員会議は講師の先生方も全員でることになっており、全職員がこういった欠席状態を共有することにしています。そうして３年生なりますと大体欠席遅刻が減ってきます。
Ⅳ、校長の学校経営ビジョンについて
これは私がつかんだ話になります。まず私立学校には、建学の精神があり、それを実現するための学校でなければならない。企業とは違います。生徒をお預かりして社会人となるように手を加えて社会に送り出す。そういう時に生徒が安心して学べる学校を作る。そのため、入学に関しては、過去に苦い経験がありますので、とにかく入学式で入学をした生徒しか入れない。つまり転入・編入は受け入れない。それからいじめ・暴力は問答無用で退学と、入学のときに保護者には伝えていいます。
それから上級生が下級生の部屋に来たりして色々と迷惑をかけたりすることもあるので、本校では全職員が、担任が昼食時にはクラスに行って昼食を一緒に取るというようにしています。昼食時間が長いのでそういう風にしてトラブルのないようにしています。また、先生方が昼食時以外も校内を回ってトラブルの無いようにしています。少しは問題もあるのですが、１年間を通じてあまりないという状態です。
それから、教育目標や重点目標で生活指導を徹底すること。心の状態は服装や髪形や、女子ではスカートを短くしたり、男子ではズボンを腰まで下げたがります。そういったものを徹底してなくすことです。常にその都度注意して、だめなら校長室に呼んで直接指導します。
出欠の確認は、生徒の健康状態などを反映しているので、体調不良とか頭痛とか出ているのはほとんど心の病です。熱が出たというのはしょうがないですが、それらを把握して、欠席の状況については毎朝校長に、この生徒はこういう理由で欠席していますと全部出しています。まずそれからスタートです。
それから授業を受ける態度、これをきちっとしなければならない。やはり学ぶということは、素直に周りに迷惑をかけないようにしなければいけないと注意しています。
Ⅴ、おわりに
組織マネージメントというタイトルですが、組織で重要なのは目的や目標です。それがきっちりと皆で共有していないといけないので、そういうことについては、朝会で年がら年中話しています。その辺がしっかりしていないと、組織としての成果が上げられないということははっきりしていると思います。
人材を生かすということについては、集団の一人一人の一番いいところが発揮されて、それが集団の力としていい成果に結びつくことが必要だと思います。これは企業でも学校でも自治体でも組織では皆同じだと思います。
ただ、企業はご存じのように、色々と商売をしてお客さんが喜ぶような物を売って利益をあげ、従業員のためにも社会のためにも組織を維持拡大してゆくという使命を持っています。ピーター・ドラッカーの理論を経営に生かしている経営者の代表がユニクロの柳内社長さんだそうですが、世界一になると言うそうですね。そして従業員ひとりひとりが経営者であると、そしていいものを安く作るとそういうポリシーでやっているそうです。何か商品が売れるためには新しいものを開発しなければならないし、どんどん増やしていかなければならない。
ところが学校の場合は、予算とか施設とか教員の数とか限られています。当然顧客を減らすということは全然合わないことなので、学校の場合、教育目標は利益追求ではない。教育基本法第１条には人格の完成を目指すというのがあるわけなので、私どもとしては、学力は低くても人格の完成はできるのでそういう生徒受け入れているわけです。
何といっても組織としてどうするかというのがマネージメントの基本なので、それが私には実はよくまだ見えていないのですが、学校においては、これは病院とかいわゆるサービス業の場合には、どうしても目的目標がしっかりみんなで共有しないとだめです。利益を生むから生活が豊かになるというわけではないので、そこがポイントとなります。
私立学校の場合は、ＮＰＯ法人と同じなわけです。事業の目的に共鳴して皆さんが集まってくるのがＮＰＯなのですが、それと同じように目的目標をしっかりする。人材を生かすと言った場合に色々な先生方や職員がいますが、それをどうするか。例えばＡ組といった場合、やはり、誠実にフットワークが軽い、どんどん動ける先生をあてています。例えば欠席したとなればすぐ家庭訪問します。一日か二日、毎日連絡を取るのですが、いくら遠くてもその日のうちに家庭訪問します。あるいは生徒指導に非常に強い人とか、そういったことで、何か課題ができた時には、すぐにこれはこの人というように、やっております。
私の感じとしては、学校では組織としては、いわゆるナベブタ型という、企業や官庁のピラミッド型とは異なる組織で、学年やクラスが同じ位置にある組織で、その中心に校長がいるという形です。何といっても人間教育というのは直接人間同士が会う場のクラス経営なわけで、それをきちっとできるように先生方の能力を高めるようにしなければいけないこと。それと、学校経営を自分が経営者であるという気持ちでやってもらうのが一番いいわけで、その意識をどう高めていくかということをこれからのマネージメントのポイントではないかとまとめながら感じました。
時間が来たようですので、まとまりのない結果ですが、私がこの一年ちょっとの間で経営を見て努力を感じたことをまとめてみました。先生方にぜひご指導をいただければと思いますので、よろしくお願いいたします。以上で終わりにしたいと思います。ありがとうございました。